「シン・ウルトラマン」(2022年)でウルトラマンにハマった自分が、生まれて初めてリアルタイムで追うウルトラシリーズ、『ウルトラマンデッカー』。
今回は、第1話「襲来の日」の感想を記録する。
主人公アスミ・カナタ登場
あっ主人公いい奴。もう好きですね。
主人公カナタは、誰にでも優しく明るく、絵に描いたような好青年だ。いかにもヒーロー作品の主人公という感じがする。
カナタの両親は火星旅行に行っているそうだが、人類がすでに火星に進出している世界なのは驚きだった。
SFが好きなので、地球以外の惑星に移住している設定はそれだけでワクワクしてくる。
いきなり凶悪なヘプタポッドみたいな奴らが襲ってきた!
主人公たちの穏やかな日常は突然破られた。
凶悪なヘプタポッド宇宙船みたいなものが世界各地にやってきて、ウイルスのような形の飛行兵器を放ち、地上攻撃を始めたのである。
ヘプタポッドとはSF映画「メッセージ」(2017年)に出てくる宇宙人である。
彼らは煎餅のばかうけみたいな宇宙船に乗って地球に来訪する。
そういえば主人公カナタの家も煎餅屋だった。なお何も関係ない。
SF古典『幼年期の終わり』の宇宙人オーバーロードが乗る宇宙船もそうだが、地球人を恐れさせる宇宙船は、世界各国の首都上空に一斉に現れるのがお約束だ。
ウルトラマンでも、それは例外ではないようで嬉しい。
そんなことをぼんやり思っているうちに、ウルトラ怪獣が降臨してしまった。
精強融合獣スフィアザウルス。
「精強融合」なんて漢字の並びは生まれて初めて見た。
宝石のように綺麗な身体の怪獣だが、デカいし強いし普通に地球がピンチである。
助けて!ウルトラマン!
神秘性の高さから「融合」より「降霊」という印象のウルトラマン
ウルトラマンデッカー、まさかの「しゃべらないウルトラマン」だった。
敵性物体に取り込まれ、生存が危うくなった主人公カナタの前に、突如現れた「光の巨人」。
巨人は何かを伝えてくるが、その声はカナタにしか認識されない。
初代の「ウルトラマン」では、「君はいったい誰だ」と問う主人公ハヤタに「M78星雲の宇宙人だ」と自己紹介してくれる。
Amazonプライムで見られる「ウルトラマンZ」では、自己紹介どころか地球に来る前からウルトラマンゼットとウルトラマンゼロがしゃべりまくっているし、主人公ハルキにも「地球の言葉はウルトラ難しいぜ」と滅茶苦茶な日本語を駆使しながらたくさんしゃべってくれる。
私は初代とZを少し見ただけなので他の作品を知らないが、ほとんどのウルトラ戦士は地球語でしゃべっていると聞く。
だが、デッカーはしゃべらない。
言語の形を取らないので彼の言葉は視聴者に届かず、巨人の意志はカナタにしか通じない。
このような演出から、デッカーは「人間と宇宙人が融合する」というよりも、「人間を依り代にして降りてきた神が戦う」という印象を持った。
降霊術というか、イタコやシャーマンに近い感覚だ。
光に包まれた人間は神に導かれるまま、神との媒介であるインターフェース(製造:株式会社バンダイ)を用い、そこに霊的な力が込められた御札を通し、神の名を詠唱することで、人間と神は一体化する。
概念的な存在であった神は肉体を得て、超越的な力をふるって物質世界に介入するというわけだ。
※なお、神神書いているがウルトラマンは神ではない。シン・ウルトラマン劇中でも散々言われている。ここではどちらかといえば多神教の神、精霊のイメージである。念のため。
若者の蛮勇を大人が諌めるシーンの意義
デッカー第1話で特に好きだと感じたのは、主人公カナタの無謀な行動を、のちの彼の上司となるムラホシが諌めるシーンだ。
1話の時点で、カナタはまだ民間人である。
それでも、人々を傷つける怪獣や敵性飛行物体に怒りを覚え、落ちていた銃を拾ってブッ放しながら突撃する。
この結果、カナタは飛行物体に取り込まれてしまうことになる(幸運にもデッカーと融合できたわけだが)。
カナタの怒りは至極真っ当で、決して悪の行為ではない。
むしろ善から来る行動であり、時代や場合によっては大いに賞賛されるものだろう。
だが、繰り返すが、このときのカナタは民間人だ。
戦うことを職業とするプロの人々がおり、のちのライバルとなるリュウモンが言うように素人であるカナタの行動は自殺行為であり、下手をすればプロの足を引っ張っていた可能性だってあった。
そんなカナタを、ムラホシは「人助けもいいですが、自分の命も大事にしなくては」と諌める。
相手の感情を認めつつ、冷静に叱れる大人の存在は貴重だ。
ムラホシはまさに「お手本のような良い大人」をやっていると思う。
それは虚飾ではなく、心根から出ているものだとわかるので、彼が部下や仲間たちから慕われるのも納得だ。
さらに良いのが、カナタも叱責をしっかりと受け止め、「すみません」と謝罪することだ。
開き直って英雄的な行為を誇るでもなく、「こんな状況だから仕方がない」と言い訳をするわけでもなく、彼はムラホシに頭を下げる。
主人公が自分の無茶を反省するというのは大事な描写だと考える。
現実では、無謀な行為は自分の命を落とす可能性が非常に高いし、周りを心配させたり状況を悪化させたりする場合があると気づけるからだ。
漫画や映画などでも「無茶な行動をする主人公」はよくいるが、一歩間違えれば「なんでコイツは自分勝手に動くんだ?」「なんで仲間に迷惑をかけるのか?」とヘイトを集めてしまう。
実際、私も主人公の行動にストレスを感じて途中で脱落した作品がある。
これは自分の性格や好みの問題ともなるが、周りを顧みずに自分勝手に動くキャラクターはどうにも苦手だ。
そういった意味で、この一連の流れはとても安心できたし、カナタやムラホシがグッと好きになれた。
ここでカナタが自分の無力さを実感し、TPU訓練校に入って民間人から軍人へと変わる流れも、とても自然でいい。
絶望度の低い「進撃の巨人」
デッカーはストーリーラインが『進撃の巨人』と近しく、「絶望度の低い進撃の巨人」だと感じた。
世界はいきなり詰み状態。
そこから始まる主人公の成長。
主人公だけが使える謎のパワー。
正体も目的もわからない謎の敵。
何かを抱えていそうな味方陣営。
おそらく、「世界を救う戦士の成長物語」という意味では、王道のストーリーなのだろう。
私はそれを進撃から吸収しており、文脈が頭に入っていたので、引っかかりもなくスッとデッカーの物語に入ることができた。
そんなに人間が好きになったのか、ウルトラマンデッカー。
…となるのかどうか。
ウルトラマンデッカー第1話、とても面白かった。
デッカーは前作「ウルトラマントリガー」と世界観が地続きとのことだが、私はウルトラマンの設定を初代マン以外知らない。
だが、そんな私でも十分物語に入り込むことができた。
舞台設定に関する最低限の情報は、すべてキャラクターたちが会話として説明してくれる。
目の前で事件が起こるが、主人公たちも我々視聴者と同じで何も状況をわかっていないから同じ目線に立つことができるので、ストーリーの理解も問題はない。
SFファンとしては、やはり火星コロニーやヘプタポッド宇宙船のような登場をしたスフィアにはワクワクした。
「スタートレック」や「スターウォーズ」を楽しんできた身として、こういう設定はやはり楽しい。
また、画面やストーリーの端々から、制作陣の「丁寧に作っていこう」という気持ちを感じられたのがとてもよかった。
ストーリーのテンポ。
個性がありながらヘイトがうまくコントロールされている登場人物たち。
世界観に納得感を持たせる設定。
説明臭さを感じさせずに舞台の紹介と状況説明をする脚本。
主人公たちの輝かしい前途をいきなり塞いできた、簡単に壊せない障壁。
いずれもとても好きだと感じた。
「シン・ウルトラマン」でウルトラマンの世界に入って、初めてリアルタイムで見るTV番組のウルトラシリーズ『ウルトラマンデッカー』。
第1話からしっかりと楽しむことができて、とても嬉しく思う。
敵の謎バリアによって、地球は宇宙から切り離されてしまった。
人類に残された最後のフロンティア開拓の道は閉ざされ、いきなり孤島状態になる。
地球から宇宙へ出ていけないのはもちろん、宇宙から他のウルトラ戦士が助けにくることもできない。
いったい、これからどうなるのだろう?とても楽しみだ。
監督、スタッフの皆さん、キャストの皆さん。
お身体に気をつけて、一年間どうぞよろしくお願いします。
応援しています。
不安な気持ちを吹き飛ばしてくれたテレビ東京に感謝
2022年7月8日は衝撃的な日となった。元首相が暗殺されたのである。
この忌まわしい事件は日本史に記録され、来年度からの教科書に記載されるのだろう。
ウルトラマンデッカー第1話の初回放送日は、この事件の翌日となった。
当日の朝、私は番組に間に合うように起きたものの、TVをつけるのが怖くて、なんとなく部屋をウロウロしていた。
昨日のニュースの特番が流れていたらどうしよう?衝撃的な映像を見せられたら?
漠然とした不安で、なかなかリモコンに手を伸ばせなかったのだ。
9時が近づき、ようやく意を決して、おそるおそるリモコンの電源ボタンを押した。
映ったのは、元気に踊るしまじろうであった。
事件のテロップもワイプも流れることなく、画面の中でしまじろうは笑顔で踊っていた。
私は心底ホッとした。そうだよな、テレビ東京だもんな。
今から考えれば滑稽なほどにビビっていたと思うが、前日に事件のニュースを知ってから、自分は驚くほどずっと緊張状態にあったらしい。
しまじろうに元気をもらった私は、その後落ち着いてデッカーを楽しむことができた。
土曜の朝、子どもたちのための楽しい時間を何も変えることなく流し続けてくれたテレビ東京に、この場を借りて感謝したい。ありがとう。
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