【感想】「なんだこれは!」タローマンの思い出

2022年7月、特撮ヒーローの常識をくつがえすような巨人が登場した。
そう、「タローマン」である。

今回は、令和4年の夏に彗星のように登場し、リアルとネットの世界を震撼させた”ヒーロー”について記録しておきたい。

来たぞ我らのタローマン

たった5分で驚くほどの充足感をもたらす巨人。そう、タローマンである。

タローマンとは、NHKの深夜帯において放映された特撮テレビドラマだ。
正式名称は「TAROMAN 岡本太郎式特撮活劇」であり、全10話から成る。

岡本太郎の作品をモチーフにした巨大ヒーロー・タローマンや、「奇獣」と呼ばれる敵性(?)キャラクターや宇宙人が登場し、街でバトルを繰り広げる。
どこからどう見てもウルトラマンである。

監督および脚本は、映像作家の藤井亮氏。
特撮で破壊される街などのミニチュアは、「特殊映画研究室」が製作している。
タローマンは、パントマイマーの岡村渉氏が演じている。

1話5分という短さながら、

  • 「昭和の特撮ヒーロー番組」をとことん研究し追求した演出と画作り
  • べらぼうででたらめなキャラクターと世界観
  • 真面目に2つ挿入されるCMカット
  • 何一つ合っていない語呂合わせの岡本太郎展CM
  • 存在しない少年時代の思い出を語るサカナクションの山口一郎氏のミニコーナー

などなど、ツッコミが追いつかないネタが次々と繰り出され、5分とは思えない密度の番組となっていた。

「芸術は爆発だ」という、誰もが一度は聞いたことがあるであろう岡本太郎の名言は、テーマソングに盛り込まれるだけでなく、タローマンの必殺技(ウルトラマンのスペシウム光線みたいなもの)にもなっている。

各回のタイトルは「好かれるヤツほどダメになる」「同じことをくりかえすぐらいなら、死んでしまえ」などとパワーワードにあふれているが、すべて実際の岡本太郎の言葉が元になっているというから恐れ入る。

この夏は「初代ウルトラマン再放送」や「歴史秘話ウルトラマンヒストリア」や「全ウルトラマン大投票」への呼びかけなど、ずっとNHKがウルトラマンをハチャメチャに推していた印象があるが、やたらとウルトラマンに舵を切っていたのは、この「タローマン」の制作が関係していたりしたのだろうか…?

狂気と狂喜

これほどまでに釣り針しかない作品を、インターネット民が見逃すはずもなかった。

Twitterでは大量の実況と感想ツイートが流れゆき、「◯◯をタローマンは許さない。」というタローマン構文が生まれ、次々とファンアートが投稿された。

見ている者の想像を超えるでたらめさに当てられ、強い酒に酔ったようなテンションと盛況っぷり。
そのさまは、まさに奇祭であった。

混じり合う”たろう”たち

奇しくも、タローマン放映中は「いろいろな”たろう”たち」が集中する期間でもあった。

たとえば、映画「シン・ウルトラマン」の公開にともない、ウルトラマンに注目が集まっていたが、ウルトラシリーズには「ウルトラマンタロウ」というヒーローが登場する。

さらに、ニチアサで現在放映中のスーパー戦隊「暴太郎戦隊ドンブラザーズ」の主人公の名は、桃太郎をモチーフとした「桃井タロウ / ドンモモタロウ」である。

私は見ていなかったが、大河ドラマ「鎌倉殿の13人」では、「北条泰時(太郎)」も登場していたという。

この時期、単に「たろう」とだけ言われると、それはタローマンなのか、ウルトラマンタロウなのか、桃井タロウなのか、はたまた岡本太郎なのか、いったいどの「たろう」なのか判断がつかなかった。

なお、タローマンの顔から生えている角はタローホーンといい、太郎汁(うまい)がつまっているという。
ウルトラマンタロウのウルトラホーンにも汁がつまっているのだろうか。

タローマン最終回を迎えて

開いた口が塞がらないという表現はもちろん昔から知ってはいたが、リアルで開いた口が塞がらない体験は生まれて初めてである。

タローマンのラストは、まさに映画「シン・ウルトラマン」で、人類とウルトラマンが最強の敵ゼットンに完全敗北したバッドエンドルートのそれであった。

ゼットンは1兆度の火球で地球を焼却しようとして失敗したが、タローマンは必殺技「芸術は爆発だ!」で地球を爆破し、銀河の彼方へ去っていった。

いや、なんでおまえが地球を爆破してるんだよ。

本当は、「初代ウルトラマン最終回後、子どもたちが窓からウルトラマンに別れを告げた」というエピソードにならい、私もタローマン最終回後に「ありがとうタローマン!さようなら!」と窓から夜空に向かってお別れを言おうと思っていたのだが、なんだかもうそういう感じではなくなってしまった。

タローマンの帰ったであろうシュールレアリズム星に向かって振る予定だった手を、私はむなしく握りしめたのである。

ラスボスにふさわしい奇獣「太陽の塔」

タローマンで収穫だったのが、「頭の部分からビームを発射する太陽の塔」が見られたことである。

太陽の塔」とは、1970年に開催された大阪万博のために岡本太郎がデザインした建造物である。

岡本太郎の他の作品は知らなくても、太陽の塔だけは知っているという人も多いだろう。

太陽の塔は私も実物を一度だけ見たことがあるが、どう見ても「新世紀エヴァンゲリオン」の敵キャラにしか見えなかったし、アンテナのような金色の頂部からは必殺光線が発射されないと嘘だろうと思っていた。

そんな悪ノリする大人の冗談だと思っていた「頭の部分からビームを発射する太陽の塔」が、NHKという公共放送で見ることができた。

これだけで、タローマンを追ってきた価値があったといえよう。

それにしても、タローマンのラスボスが「太陽の塔」というのは本当に素晴らしい、ということは何度でも言いたい。

夕焼けを背景にうごめく太陽の塔の、ラスボスとしての貫禄と絶望感はすさまじかった。

最終回は終わったが、「ラスボスが太陽の塔で最高だった」とずっとずっと言っていたい。

特撮ヒーローの”お約束”をひっくり返すタローマンの妙味

タローマンは、特撮ヒーローを見慣れている人ほど予想をひっくり返される面白さがあった。
いわゆる”お約束”を打ち破っていくのである。いくつか見てみよう。

「青年隊員がヒーローに変身する

OPでやたらと爽やかな笑顔を見せる地球防衛軍の青年隊員、ウルトラマンでいえばハヤタ隊員にあたるような爽やかさであり、タローマンが現れるたびに彼はどこかへ消えていた。

ネットでは、「タローマンにはおそらく変身者がいる」「OPの青年が正体なのではないか」とまことしやかにささやかれており、私もその説を推していた。が。

最終回においてタローマンが太陽の塔と戦っているときに、青年隊員は普通に地上からタローマンを見上げていて椅子から落ちた。

おまえ変身者じゃなかったんかい!

ピンチに陥ったヒーローを仲間が助けてくれる」

どう見ても初代ウルトラマン最終回のパロディーシーンで、助けにきてくれたゾフィー役ことタローマン2号をタローマンは爆殺した。そんなことある!?

なお、「シン・ウルトラマン」でもゾフィー役のゾーフィがウルトラマン役のリピアーを助けにきてくれたが、リピアーはゾーフィを爆殺しなかった。当たり前である。

ところで、CMカットにタローマンと並んでしれっと描かれていたヒーローっぽい謎キャラ、結局あれは誰?誰なの?

「タローマンまつり2号」で正体が判明した。
タローマンの前番組だった「大権威 ガ・ダーン」の主人公だそうだ。

会場に行った人によれば、「権威によって敵を倒すヒーロー」だったらしい。
しかし人気は低迷、打ち切りの憂き目にあったそうだが、特別番組でタローマンの敵役として共演が叶ったという。

そんなことある!?

「最後には地球は守られる」

ラスボス「太陽の塔」を倒せず、人類から糾弾されたタローマンは、1人宇宙に飛び立つ。

失意を抱えるも、気合を入れ直してリベンジを挑むのかと思いきや、必殺技で敵を地球もろとも破壊した。

タローマンはヒーローではないから、高層ビルの窓を執拗に割ることも、受け止めた地球防衛軍の戦闘機をポイ捨てすることも、人類が気に入らなければ地球を爆発することもできるのである。

「芸術は爆発だ」をこんな綺麗に回収するオチが他にあろうか。

「ヒーローは人類を守ってくれる」

そもそも、タローマンはヒーローだったのか?

たまたま人類にとって脅威だった奇獣をたまたま退けてくれただけで、人類が勝手にタローマンに「ヒーロー」のラベルを貼っていただけではないか?

なお、タローマンを見て「自分が本当に見たかったシン・ウルトラマンはこれだ」という感想を抱いた人がいたそうだが、「人智を超えた”上位存在”に超然としていてほしい」みたいな気持ちは、ちょっとわかる気がする。

シン・ウルトラマンとタローマンのシンクロ率

「ウルトラマン」という共通の作品が土台にあるわけだから、両作品がある程度は似たシーンが出てくるのは当然とはいえど、あまりに両作品が変なシンクロをしており、笑いを禁じ得なかった。

たとえば、タローマンが観覧車を投げて太陽の塔を真っ二つにするシーン

これはどう見てもウルトラマンにおける「八つ裂き光輪(ウルトラスラッシュ)」のパロディーだ。

映画「シン・ウルトラマン」でも、敵性外星人であるザラブと戦うときに、ウルトラマンが八つ裂き光輪を投げてザラブを真っ二つにしている。

両作品の放映タイミングがあまりに近いこともあり、タローマンを見ていて思わず変な笑いが出た。

極め付けは、最終回の地球爆発オチである。

シン・ウルトラマンのラストバトルでは、地球を焼却処分しようとする敵キャラクター・ゾーフィと、最強生物兵器ゼットンが登場する。

人類のヒーローかと思いきや地球を破壊するタローマンと、「もしウルトラヒーローが地球人の敵だったら?」を体現したゾーフィたちの脅威のシンクロ率で、もはや変な汗が出た。

どうやら、タローマンの監督である藤井亮氏も同じことを思っていたようである。

シン・ウルトラマンは本来であれば2021年公開であったが、コロナ禍によって公開が2022年にズレ込んだという経緯がある。

2022年に「シン・ウルトラマン」「ウルトラマンデッカー」「タローマン」が同時並行で世に出ることになったのは狙ったのか、それとも偶然なのか。

偶然だとすれば、もはや奇跡、神のいたずらとしか思えない。
特撮の神様である円谷英二氏、ひょっとしてあなたの仕業だったりしますか?

なお、地球爆発オチについては、これもほぼ同時期に公開された「シン・ウルトラファイト」においても、最終的にウルトラマンのせいで地球が爆発している。

本編のみならず、スピンオフ作品ともかぶる。脅威のシンクロ率である。

ウルトラマンデッカーともシンクロするタローマン

NHKの深夜でタローマンが暴れているころ、土曜の朝ではウルトラマンデッカーが地球のために戦っていた。

タローマン視聴時に、ちょうどウルトラマンデッカー第3話が放映されていた。
特撮作品でおなじみの堀内正美さん演ずる温泉街の社長が「なんだこれは!」と叫び、思わず「社長〜〜〜〜〜!!」と合いの手を入れたタローマン視聴者は少なくないであろう。

※ちなみに、シン・ウルトラマンでも禍特対班長が「なんなんだこれは…」とつぶやくシーンがある。ちょっと惜しい。

ウルトラマンの感想がタローマンに侵食された状況は、このタイミングでしか味わえなかった妙味である。

なお、ウルトラマンデッカーはガッチリと手堅い路線で作られている作品だ。
狂気を感じるタローマンとは、いい対比になっていた。

王道のウルトラマンデッカーと覇道のタローマン。

願わくば、デッカーは変な奇策に走らず、このまま王道路線を突き進んでほしいと思う。

ウルトラマンの反転存在であるタローマン

タローマンは、「ウルトラマン・オルタ」として見ても非常にクオリティーが高かった。

オルタとはオルタナティブ、「代案」や「代替」を意味する英語であるが、ここでは人気ゲームFateシリーズにおいて「キャラクターの反転状態」を示すほうを指す。

ウルトラマン・オルタ、つまりは「ウルトラマンの反転存在」がいるとしたらこんな感じだろう、というイメージを、まさにタローマンは身を持って提示してみせた。

タローマンは、体を張って地球人を守っているわけではない。

自分が”敵”と見なした存在は排除しようとするものの、彼の基準は地球人の倫理観を超えている。

地球人が自分に変な期待をしていると感じれば、わざと負けることだって辞さない。

というか、ウルトラマンだって、本来あそこまで体を張って地球人を守ってくれる義理はまったくないわけである。

私たちは、人類がピンチに陥るとなぜか必ず助けに来てくれるウルトラマンの善意に、あぐらをかいていたのかもしれない。

ウルトラマンが地球人の味方なのは、たまたま「幸運」だっただけではないか

タローマンを見たおかげで、ウルトラマンに対して、もっと謙虚な気持ちで接しなければいけないという謎の学びを得た。

人類よりはるかに”超越者”であるウルトラマンが地球人の味方をしてくれるのは、極論すれば、たまたま地球人が彼の「守りたい」というお眼鏡にかなった、というだけである。

「彼はヒーローなのだから助けてくれて当然」というのは、傲慢な考えなのだ。

ウルトラヒーローたちに対する感謝と憧れは、もちろん私にもある。
だがよく考えてみれば、タローマンと同じ精神性のウルトラヒーローがいてもおかしくない。

…いや、シン・ウルトラマンである宇宙人のリピアーには、実は、若干その気がある。

というのも、リピアーは、自分の大事な地球人の仲間たちにもしものことがあれば、「ゼットンより早く地球を滅ぼしてやる」と同じ地球人の政府高官に脅しをかけるのだ。

これは、地球人よりはるかに強い力を持った上位存在である彼だからできる芸当だ。
エゴイズム丸出しである。とても博愛の精神とはいえない。

存在しない記憶を語る人々

「タローマン」では、毎回本編後に、バンド「サカナクション」のボーカリスト兼ギタリストである山口一郎氏が「幼少期のタローマンの思い出を語る」というミニコーナーが設けられていた。

山口氏は、欲しかったタローマングッズやヒーローショー、タローマンで子役を務めていた俳優との対面など、タローマンにまつわる自分の思い出を楽しそうに語っていた。

特撮ヒーローにハマった人であれば深く共感できる、微笑ましい記憶である。100%嘘ということを除けば。

山口氏に呼応するように、ネットでも存在しないタローマンの記憶を語る人々が次々と観測された。

存在しない記憶が“無”からどんどん生えてくる状況。

まさに、SF映画「インセプション」(2010年)の世界である。

とはいえ、実は人間は、自分がついた嘘を本当だと思い込む性質を持っているという。

映画「インセプション」はフィクションの世界だが、「記憶の植え付け」というのは、案外簡単なのかもしれない。

タローマンがシン・ウルトラマンの後でよかった

「シン・ウルトラマン」の公開が「タローマン」よりも先で、本当によかったと感じる。

自分の闇部分は、ゾーフィが出てきた時点で「タローマン2号だ!」と大騒ぎしただろうし、リピアーのあの切ないラストで絶対我慢できずに笑ってしまったと思われるからである。

タローマンを見たあと、池袋で開催されたウルトラマンと会えるイベント「ウルトラヒーローズEXPO 2022 サマーフェスティバル」の初日に行けばよかったとつくづく後悔した。

というのも、初日にはウルトラマンとゾフィー(しかもブラザーズマント姿!)が2人セットで登場していたからだ。

当時はまだタローマンを見てなかったため、純粋にかっこいいゾフィーとウルトラマンの確固たるイメージを持てていただろうに…。

ウルサマの余談

「ゾーフィのフィギュアを抱えて原典のゾフィーと写真を撮りたい」と考えた私だが、タローマン2号のフィギュアを持っていたら、タローマン2号を抱えてゾフィーといっしょに写真を撮るという誘惑に勝てたかどうか、ちょっと怪しい。

いくら円谷プロダクションがタローマンに取材協力しているからといって、さすがにねぇ…それはちょっと非常識じゃないのと思うわよねぇ…お叱りを受けるわよねぇ。

でも、ここには安全網がある。
なんと、タローマン2号のフィギュアは販売していないのである!

※なお、「ゾーフィのフィギュアを抱えて原典のゾフィーと写真を撮る」という夢は叶えた。
2022年が最大瞬間風速であり、今やらないとと思ったため。

あの時はちゃんと反応をくれてありがとう、ゾフィー。

岡本太郎の展覧会とタローマンまつりの忘備録

大阪中之島美術館にて、2022年7月23日~10月2日まで「展覧会 岡本太郎」が開催されている。

さらに、8月20日〜21日には「タローマンまつり」という狂気のイベントも開かれ、大好評を得たという。

東京では、10月から東京都美術館で岡本太郎展が開催される。

ぜひ行きたいと思うし、タローマンまつりもぜひ開催してほしいと願っている。期待しています!

  • 展覧会 岡本太郎(Okamoto Taro: A Retrospective) 東京展
  • 開催期間:2022年10月18日(火)~12月28日(水)
  • 開催場所:東京都美術館 企画展示室
  • 開室時間:9:30~17:30(月曜休室)
  • 展覧会公式サイト:https://taro2022.jp/

なお、​​タローマンまつりが好評であったため、2022年9月23日〜25日までの3日間、大阪中之島美術館で「タローマンまつり2号」が開催されるという。

「同じことをくりかえすくらいなら、死んでしまえ」
そう岡本太郎も言っているが、はたして大丈夫なのだろうか。

思い出の、夏。

2022年夏は、「シン・ウルトラマン」と「ウルトラマンデッカー」と「タローマン」を同時期に見られるという幸運に恵まれた。

「シン・ウルトラマン」をきっかけに初代「ウルトラマン」を見始めて、王道ヒーローの「ウルトラマンデッカー」もリアルタイムで視聴を始めたところにタローマンとタローマン2号をぶっ込まれ、ゾーフィやゾフィーの記憶がかき乱される事態になった。

2022年の夏は、本当に思い出の夏になったといえよう。

なお、タローマン放映中に、シン・ウルトラマンではテレビシリーズ「ウルトラマン」のメフィラス回およびゼットンの登場回付き上映がおこなわれることになった。

私は見納めとしてゼットン回を鑑賞すべく劇場に向かったが、タローマン2号を知ってしまった人間として、あの哀しいラストを切ない気持ちで迎えられるのか…!?

完。

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存在しないタローマンかるたの復刻版が出るという。そんなことある!?

気づかないうちにBlu-rayディスクが発売していた。